12. 罪
「罪!」
パソコンの前で、友人が大声でわめきました。
物騒な単語です。一体何を考えているんでしょうね、この女。
「……罪。つみ。犯罪……にするとちょい、ニュアンスが違うよなぁ」
この友人の名前を茅といいます。ちがや。カヤではないのですよ。
パソコンの前で唸っているのを観察するのもまた一興ですが、今日は趣向を変えて(?)会話でもしてやりましょうか。
で、さっきから何をぶつくさいってるんですか、茅さん?
「今度のテーマが『罪』なんだよね」
ああ、小説の。
「で、どういう風な切り口で書いてみようかなぁ、と」
実話で書けばどうですか?
「……あんた、そんなに私を犯罪者にしたいか」
少なくとも頭の中身は犯罪すれすれじゃないですか。
「笑っていうことか、それ?」
おや、笑ってましたっけねぇ、私。
それはそうと、実話ネタが無理ならどういうところから持ってこようと思ってるんです?
「それがわかんないから悩んでるんじゃないか」
分からない?
「……」
おや、茅さんが黙り込んだ。
この女、人との会話よりも自分の妄想を優先しますからね。人の話を聞かないったら。
いつものことですけどね。
ええ、器の広い私はこんなことでいちいち怒ってはいません。怒っていたら身が持たない。特にこの女と付き合うときは。
「……寝言は寝ていえ」
いいじゃないですか、あなたと私の仲。
あなたが私のことをぼろくそにわめくのだって、いつだって笑って聞き流してるでしょう?
「うん。悪魔の微笑みで」
ほーほほほ。……って、何をやらせるんですか。
「なぁ」
なんざんしょ?
「罪、って、なんでもありだよね?」
……? そりゃあ、まあ。
「近親相姦ネタ。うちのキャラで。どうだ」
やめんかい、このボケ!!
近親相姦って、親子は一組しか出てきてないやんけ、ワレ!
「え〜〜〜? 本編ではそりゃ、一生ありえないかもしれないけどさ〜。どうせお遊びのネタだしー。作者本人が書いた二次創作ネタってことで〜」
作者が書くのは「二次」とちゃうやろ!
「むー。じゃ、キリスト教に絡めて、親殺し。カトリックは色々『○○禁止』ってのが多いからわりと禁忌ネタ、作りやすいよね」
あんたね。
本物のカトリック教徒が聞いたら怒りますよ、それ。
「よし、分かった。カトリックで同性愛もの」
……。
茅さん、あんた、そのネタ平気でした?
「ううん。実は苦手。触るんなら男同士より絶対女同士の方が気持ちいいと思う」
……あんたの発言もギリギリやっちゅーねん。
「平気平気。私、一番好きなのは真っ当に男女ネタだもん。うちなんか見ろ。真面目に描けば十八禁にだって充分なりえるぞ、この話」
あんたの話?
ああ、目次にいきなり「受胎」って書いてあるやつですか。
……確かに。
でも、あんたのそういうシーンって全然色気がないじゃないですか。
「苦手だもーん。生々しいの駄目なんだもーん。愛情にしても憎悪にしても嫉妬にしても、生々しいのってなんか息苦しいんだもーん」
やれやれ。
あんた、その欠陥を直さないでよく物書きなんかやってますね。
「ほっとけ」
で、肝心の「罪」はどんなネタで書くつもりなんですか?
「むー。Y嬢なんかヤクザネタで上手いの書くだろーなー」
人を羨んでいるだけじゃ、白紙のノートパッドは埋まりませんよ。
「わかっとるっちゅーねん。そうだなー、M嬢なんかだと現代風刺みたいなのをさくっと書くのかなー」
あんたは?
「……ずばっと聞くね」
そりゃあ。付き合い長いですからね。
あんたの持ち味はラストで、すこーんと落とすタイプの短編でしょう?
「そうでないと面白くないやね」
じゃ、その方向で詰めていったらどうですか。
創作関連なんて、他人がどうこうできる問題でもないですしね。
「罪……罪……」
また人の話、聞いてない。あんた、いいかげんになさいよ。
「ん、ごめん」
心ここにあらずの返事。
お、またパソコンに向かい始めましたね。やればできるじゃないですか。さて、しばらく私は眠りましょうかね。
そして、茅さんはつらつらっと軽やかにキーボードを打ちました。
タイトルが決定したようです。
……おや? とうとう私のことまでネタにしくさりましたね、この女。私の存在が罪だなんて欠片も思ってないくせに。
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ある二重人格者の告白
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(注※この物語はフィクションです。実在の人物とは一切関係ありません/^^;)
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