十和田茅による30の戯言(05)  (02/12/05更新) [目次に戻る]

 05. 雨

 雨を。

 干ばつが国を襲った。
 雨を、人は求めていた。
 たくさんの草が枯れ
 たくさんの獣が干からび
 たくさんの人が天に祈った。
 すべては枯れ果てて
 それでも雨は降らなかった。

 雨を。

 どうして雨が降らないのかと
 天の国に住む龍神の子供は聞いた。
 大人は黙って首を振る。
 子供には分からない。
 神に訴える人の声に
 龍神の子供は応えて舞い降りた。

 雨が降った。
 干ばつの国に雨が。
 川には水がとうとうと流れ
 池の水位は上がり
 田んぼは潤った。
 人は龍神を讃えた。

 人は、龍神の子供を祭った。
 社(やしろ)という名の結界に閉じこめ
 巫女という名の生け贄を捧げて
 龍神を閉じこめた。
 二度と干ばつが来ないように。
 二度と、干ばつで人が死なないように。
 龍神の子供は願った。
 天に帰らせて欲しいと。
 だが、人間はそれをよしとはしなかった。

 龍神の子供はそこで大きくなった。
 やがて、龍神は大人になって死んだ。
 社に閉じこめられたまま死んだ。
 雨が降った。
 嘆きの雨が。
 涙雨を降らせたのは天に住む龍神たち。心優しい、あわれな子供のために。
 人はそれを恵みの雨と喜んだ。
 雨を受けて稲はすくすく育った。

 悪いのは誰か。
 人は、自分の大切な人達が幸せでいて欲しかっただけなのに。

 龍神に捧げられた巫女は
 社を出て国を出て、誰も知らぬところでこっそりと赤子を生んだ。
「私も、私の大切な御方が幸せでいて欲しかっただけなのに」
 生まれた子はやがて父親譲りの力で国をひとつ水没させたそうな。

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