十和田茅による30の戯言（02）

時間だと、介添人が告げた。
それに微笑んで答え、そして一歩を踏み出す。
光り輝くステンドグラスの下へと。

重く白い衣装に身を包んで、私は今日、花嫁になる。

「おめでとう」
「おめでとう」
「ありがとう」

笑わなければ。
今日は、世界一幸せな花嫁を演じるのだ。
誰よりも幸せで、人生で一番嬉しくて、輝いている瞬間に見えるように。
誰から見てもそう見えるように。
隣に立つ男を見上げる。
政略結婚。
けれどいい人だ。きっと幸せな家庭を築けるはず。後悔はしない。

そして。
とびきりの笑顔を貼り付けたままで、私はある招待客を見た。
彼は笑っていた。
心から私の結婚を喜んで、手を叩いてくれていた。
「おめでとう」
「ありがとう……」

　　　＊

愛してました。
本当はあなただけを愛していました。
だからさよなら。
この思いを抱えたまま、私、あなたでない人に嫁ぎます。