タイトル文字:翡翠抄
ひすいしょう

導入編

伝承 〜表〜

 この「世界」は生きていました。
 生きて、そしてたくさんの命を己の中に内包していました。
 ここはそういう「世界」でした。

 あるとき、大きな星がこの「世界」に落ちました。
 占い師たちはその星についてこんな予言を残しました。
 人間だけでなく、精霊も、妖魔も、竜も。

 これすなわち滅びの星である、と。
 これすなわち改革の星である、と。
 これすなわち異端の星である、と。

 色んな解釈がされましたが、共通しているのはこの星はとても大きな力を秘めた「一個人」であること、そして誰もこの星の居場所は占えないということでした。
 誰ともなく、この星のことを「予言の星」と呼ぶようになりました。
 人間は星を恐れ、精霊は歓迎し、妖魔は手中に収めたいと思い、竜は排除したいと願い、そして、この世界に残された唯一の神は心底この星の存在を渇望していました。……そのことはだれも知りません。少なくとも今は。

 予言の星は吉兆でしょうか。それとも凶星なのでしょうか。
 ただひとつ分かっていることは
 「予言の星」――ひとりの娘は自分の運命などなにも知らなかったということです。

伝承 〜裏〜

 廃屋と化した神殿、祭壇だったであろう場所に、二人の少女が跪き祈りを捧げていた。
 全く同じ顔をした二人の少女。ただ髪の色だけが異なっていた。背を流れるのは金の髪と銀の髪。だがそれがさらに二人を一対に見せていた。
 二人は熱心に何を祈っているのだろうか。
 この時点で、それは誰も知らなかった。

 彼女たちは何者なのか、何を祈っていたのか。
 それがすべての始まり。

   *

 女は痛みを知らぬ故に傲慢であり
 男は痛みを知るが故に臆病になった。
 女の名はサラ。男の名はホウ。

 銀の天使の導きによって、一組の男女は
 出会うはずのなかった運命の相手に巡り会った。
 時を越えて場所を越えて、異界さえ乗り越えて。

 それが物語の始まり。
 何故、銀の天使は二人を会わせたのか。

   *

 時は巡り……遠い異世界にてひとつの産声が上がった。
 金と銀の少女たちが願った祈りが具現したもの。
 サラとホウの娘。

 翡翠と名付けられたその子供は、今はまだ何も知らず健やかな寝息を立てていた。
 のちにこの娘が「世界」に帰還したとき、彼女は予言の星と呼ばれることになる。


すべての答えは 過去の中に
すべての未来は 戦いの果てに


夢を紡ぎし青き君は
その力をもって未来をも紡ぐ
現実しか知らない 愛しい女のために
星を見透かす紫の姫は
運命を分かち合う双子星
お前はヒスイのために生まれてきた
慈愛に満ちた朱鷺色の巫女は
神を捨てても
その魂は曇ることを知らない
琥珀色に輝く竜の盾は そは守りの力
忠誠ゆえに 彼は
死よりも残酷な真実を受け入れた
孤高の紅き戦士は
愛した女の願いを叶えるだろう
何よりも強く彼女を欲するがゆえに
光と闇を同時に愛する者は
どちらにも与しない
味方かもしれないが……敵かもしれぬもの

仕組まれた運命はあまりにも本人を無視した身勝手な願い

 
 

愛紗「ねぇ、翡翠抄ってこういう話だったの?」
翡翠「……どうもそうらしい」
愛紗「私、父を捜して○千里って話かと思ったわぁ」
翡翠「ほとんどの人がそう思ってるんじゃないのか?」
青「それもこれも作者がへたれだからねッ」
翡翠「身も蓋もないが……真実だな」

悪かったな。

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