ある週刊誌より presented by 彩根 耕二
 
 よく聞いてくれ。
 言っても誰も信じてくれないかもしれない。
 だけど、俺の頭は狂っちゃいない。
 本当の事なんだ、真実なんだ。
 事の始めはこうだ。
 俺はカワイとヒデさんの三人で飲んでたんだ。場所は駅前の何とかってパチンコ屋のガレージだよ。
 あそこのガレージでさ、臭いホームレスのオッサンが因縁付けてきたんだよ。向こうから仕掛けてきたんだ。決して俺達からじゃない。
 こっちは楽しく酒飲んでるだけなのに「うるさい邪魔だ」って言ってきたんだ。
 んで、何か言い返したんだ。内容は忘れたけど大した事は言ってないと思う。
 すると、オッサンが掴み掛かってきて、俺は振り払っただけなんだ。そう、殺ったのはヒデさんだよ。あの人、思いっきり蹴ってたもん。だから、俺が悪いんじゃないんだよ。
 そのあと、オッサンが動かなくなったから、俺達恐くなって逃げたんだ。
 まさか、死ぬなんて思わなかったんだよ。それに悪いのは俺じゃない、ヒデさんだ。
 家も逆だったし、途中でヒデさんと別れた。俺はカワイと二人で帰ったんだ。
 すると、急にヒデから携帯が掛かってきたんだ。「金属バットを持ったさっきのオッサンに追いかけられている」って内容だった。俺とカワイは笑ったよ。出来の悪い冗談だと思った。
 でも、本当だったんだ。ヒデさんが走りながら話をしているのが息遣いでわかったから。
 最後に「助けて」って言ったんだ、ヒデさんが。携帯が切れる直前に、泣きそうなヒデさんの声と鈍い音が何度か携帯から聞えてきた。途中、アスファルトを叩く金属音が鳴り響いたし、ヒデさんは絶対にあのオッサンに殺られたんだ。
 俺とカワイは恐くなった。
 俺は気を落ち着けようと、駅のプラットホームの自販機にビールを買いに行ったんだ。
 ちょうどプラットホームに放送が流れて、電車が来る事がわかっていたから、カワイは俺に早くしろって言ってた。アイツはビビッていて、早く家に帰りたがってたんだ。
 すると、前に匂った事のある、臭い匂いがした。
 振り向くとアイツがいた。オッサンだ。
 オッサンが電車を待つカワイの後ろに立ってたんだ。
 カワイはそれに気付いてなくて、俺が知らせようとした時だった。
 あのオッサン、カワイの背中を押したんだ。何のためらいも無く。
 カワイは線路に落ちて、すぐさま来た電車に跳ねられた。電車は駅を通り過ぎてから止ったんだ。俺がその後、線路で見た物は新鮮なミンチ肉だった。カワイは消えてしまったんだ。
 すると、今度はオッサンがこっちを振り返りやがった。俺を見て笑ってた。
 俺はオッサンの匂いに気持ちが悪くなりながらも、恐くて逃げた。
 駅前に置いてあった鍵の無いチャリンコをパクって、それに乗って家まで逃げたんだ。
 今、部屋のドアに鍵を掛けて、これを書いている。
 頼むよ、誰か助けてくれよ。
 なんで、こんな日に限って誰にも携帯が繋がらねぇんだよ。
 タケオもオカハラも、何で繋がらねぇんだよ。
 なんか聞えた。窓が割れる音だ。あのオッサン、一階の窓を割って入ってきやがった。
 そうだ、警察だ。警察に電話すりゃ良い。
 臭い、またあの匂いだ。階段を上ってくる音が聞える。
 助けてくれ。頼む、助けてくれ。
 あの野郎、ドアを壊す気だ。金属バットで叩いてやがる。
 ちくしょう、ぶっ殺してやる。
 俺がどれほ……(以下、文字が乱雑で読めず)
「村上容疑者の部屋から発見されたメモより抜粋」

 

  これが、村上将太容疑者(20)の部屋で見つかったノートへの書き殴りである。
 書かれているのが口語文であり、読みにくい個所もあるとは思うが、出来るだけ実際の文章を再現したかったためにこのような文章にあいなった。途中、いくつか字が酷く、読めない個所があったためにそこに当てはまるであろう文字を挿入させてもらった事もあわせてご容赦願いたい。
 彼は最後にこのような遺書を残したが、彼の部屋には劇物であるトルエンと、遠山英昭さん(22)の殺害に使ったと思われる金属バットが発見されため、警察はトルエンでの幻覚中に遠山さんを殺害し、同じく幻覚によって自殺したのではないかとの見解を強めている。また、T駅のホームで落下し電車に跳ねられ死亡した河合雅人さん(20)、T町のパチンコ店「パラパラ」のガレージで発見された身元不明(50歳代男性)との関連も調べているようだ。
 だが、容疑者が死亡している点、窓やドアが金属バットで外側から壊されていた点、金属バットが盗まれたスポーツ店には侵入された形跡が無い点、また幻覚症状の中でこれほどの文章が書けるのかと謎が多く、警察も頭を抱えている。

(文・彩根耕二 ライター)

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